前回・前々回でトラストフォーマットに関する記事を書いてきました。引き続き今回も同テーマについて説明していきたいと思います。今回取り上げるのは信頼される写真素材についてです。広告バナーにしてもサイトにしても人物や商品の写真をデザインに含めて欲しいと依頼れることが多々あると思います。この記事で紹介する内容を、素材選定の際やクライアントから相談を受けた際の参考にしてみると良いかもしれません。
信頼される写真
皆さんはECサイトにおいてどのような写真を「信頼できる」と感じますか?
制作側の目線で考えると、しっかりとセットした上でカメラマンが撮影しPhotoshopで加工したまるで雑誌のような写真が信頼性が高いと感じるのではないでしょうか。
これは半分正解です。高級感を売りにしたブランディングがしっかりとなされている場合、そのブランドを好むターゲットは素人感のない “整った” 写真に信頼を寄せるでしょう。しかしプロが制作した加工写真は別のターゲットユーザーからすると「胡散臭い」と思われる場合が最近は多くなってきているのです。
前回までの記事でも散々述べてきましたがトラストは変遷するものです。それは今回のテーマの写真素材についても同様です。上に「プロが制作した加工写真は別のターゲットユーザーからすると『胡散臭い』と思われる場合が最近は多くなってきている」と書きましたが、昔はそう思う人はほとんどいなかったことでしょう。ユーザーの目が肥えてくることによって写真素材に対する以前のトラストが失われ、新たにトラストが生成された結果なのです。
画像の重要性
話は一旦逸れますが、信頼される写真とは何かの前に画像がいかにサイトに置いて重要か、また画像の中でもどのタイプの画像が好まれるのかを先に確認しておきましょう。
文字よりも画像
まず以下のサイトの比較をご覧ください。口座開設に関するWebサイトです。
(引用:https://www.slideshare.net/sawendel/uxweek-2015-designing-for-behavior-change)
どちらのページがコンバージョン率が高かったと思いますか?
正解は……
右の方が高かったそうです。こちらはとある口座開設ページにて実施されたページ改善で、左が改善前、右が改善後です。改善後はなんと口座開設が27%もアップしたのです。
一体なぜでしょうか?
改善前後の最も大きな違いはイラストの有無ですね。ユーザビリティ研究の第一人者、ヤコブ・ニールセン博士がかつてユーザーがいかにテキストを流し読みしているかの研究結果を発表していました。研究によると平均的アクセス中にユーザーが読むテキストの量は多くても全体の28%、より現実的にはわずか20%です。改善後のイラストはユーザーが読み飛ばしがちなテキスト情報を簡潔に分かりやすく伝える補助としてとても重要な役割を果たしているのです。
別サイトの施策も見てみましょう。
(引用:コンバージョン率を上げるためにA/Bテストを行う上で知っておくべきこと)
こちらも背景に写真が追加された右のページに変更したところなんと102.5%もコンバージョン率が向上しました。テキスト情報の補足ではないですが、皆さんも右の写真の方が「見やすい」「まとまっている」「安心できる」と感じたのではないでしょうか?テキスト情報を減らして直接的には関係のない画像が入っているにも関わらずユーザーは画像入りのサイトを信頼し好みます。
このようにユーザーは文字よりも画像を信頼するのです。
イラストよりも写真
文字よりも画像が信頼獲得につながると言っても、画像にも種類がありますよね。イラストを入れるべきなのか、写真を入れるべきなのか、はたまたどちらでも変わらないのか。結論からお伝えするとイラストよりも写真の方が信頼性は高いです。
「確実に販売につなげる驚きのレスポンス広告作成術」によると、クーポン付きの広告を何パターンか印刷しどの広告が一番持ち帰られたかの調査がとある整骨院で行われたそうです。パターンは大きく分けるとイラスト付きのポスター、抽象的なイメージ写真付きのポスター、院長や資格証明書の写真付きのポスターの3パターンです。調査結果は院長等の写真が掲載された具体性のあるポスターがダントツとなりました。
このように画像の中でも写真がより信頼性が高いと受け取られるのです。
イメージ写真よりもリアルな写真
上でも触れましたが、抽象的なイメージ写真よりもお店や商品の情報が把握しやすいリアルな写真はさらに信頼されやすいです。
実際に利用している場面の写真、資格を証明する写真、平面ではなく立体感のある商品写真など。
(引用:marketingsherpa)
こちらのマーケティングセミナーのバナーに関するA/Bテストも、女性の横顔写真を使用している上のバナーよりも実際の講演者リストが掲載されている下のバナーの方がコンバージョン率が高かったそうです。
インターネットでの買い物においては実物を目の前で見ることができるわけではないので、ユーザーが極力実物と近い具体性のある写真を求めるのは至極納得のいく流れですよね。
写真素材のトラストの移り変わり
話は戻りますが、プロの手によって制作された整った写真に関するトラストは失われつつあります。
失われつつあると書きましたが、かつては綺麗な加工写真が売れ、信頼されていました。このトラストが失われてきたのはインターネットの発展が関係しています。
Web1.0の時代はwiーfiが普及しておらず速度の遅い電話回線が使われていたため、画像を表示するだけでも膨大な時間がかかっていました。なおかつ片方向の情報発信、いわゆる「ホームページ時代」と言われていたようにコンテンツ管理者が作成したものが表示されユーザーはそれを閲覧することしかできませんでした。そのため発信者側となる人はある程度お金とスキルを持ち、尚且つインターネットに精通した人に限られ、全体としてのネット利用者はまだまだ少ない時代でした。素人が気軽に投稿できなかったからこそホームページ上で使用されていた素材もプロが作成したものが当たり前だったのです。ホームページを閲覧するユーザーは、ページにプロの加工写真しかなく比較対象もないのでプロ素材を疑う余地もなかったということです。
2000年代中旬頃からはWeb2.0に突入し、双方向の情報発信、つまり誰もがWebを介して情報発信ができるように変化し始めました。SNS時代とも呼ばれますが、この時代にTwitterや InstagramなどのSNS、個人のブログ、クラウドを利用したチャットツールが興隆します。スマートフォンの普及も相まってユーザーは閲覧するだけでなく容易に発信者にもなることができるようになりました。手元のスマートフォンで撮った写真をすぐにネットに投稿でき、さらに今ではアプリの普及で誰でも画像加工までできてしまうようなっています。ユーザーは自分が発信者側になり、いかに加工が簡単にできるか、いかにインターネット上の写真が現実と異なるもので溢れているのかを理解し始めました。それにより素人が加工し投稿した顔写真を疑うところから始まり、企業が使用している素材さえも”ウソ”であると勘づき始めたのです。
これがプロが制作した”整った”写真のトラストが失われつつある流れです。
私たちがそれらの写真を信用していない身近な例を挙げましょう。皆さんは飲食店の情報を探す場合、何のメディアをメインで利用しますか?おそらく「食べログ」や「Instagram」なのではないでしょうか。いずれもお店を訪れたお客さん、言い換えると写真に関して素人であってもスマホで撮影してお店の写真をアップできるメディアです。先にリアルな写真が信頼されると書きましたが、せっかく自分が行くお店なら正確でなくべく現実と乖離がない情報を得たいと思いませんか?
簡単に加工できる時代になったとはいえ、某ハンバーガーチェーンのようにボリューム感が増すように具材を手前側に寄せてセットし、さらにPhotoshopを使った本格的な画像編集までして投稿する…というユーザーは現時点ではほとんどいません。お店で盛り付けられて席に運ばれてきた状態のものを率直な口コミつきでアップするからこそ、自分と同じ目線での情報に思えて安心できるのです。
逆にお店のホームページを主な情報源とするユーザーは近年減少傾向にあり、「食べログ」と同様にグルメサイトではあるがプロ加工の似通った写真が並ぶ「ぐるなび」も昔より写真情報を参考にするユーザーは減ってきています。
他にも、写真素材販売市場においてインフルエンサーが撮影した写真が、プロ撮影のものの20倍以上の価格で売れるという時代にもなっています。それだけ絶妙な素人感がある写真が好まれているため、アパレルでは顧客を試着モデルとして掲載したり、大手企業がUGCとして顧客が投稿したSNS投稿をサイトで紹介したりしているのです。
このように、写真においても「美しさ」よりも「信頼」を意識した方がコンバージョン率向上に繋がりうるのです。ただし、先にも触れましたがブランディング的に「美しさ」も大事であるという視点はもちろんあるので自分が担当する分野の顧客のトラストをしっかりと把握していくことが必要である、ということは言えますね。
まとめ
以上に写真に関するトラストの変遷をまとめました。毎度言っていることですがトラストはどんどん変わっていくのでWeb3.0時代はまた別のトラストが生まれてくるでしょう。A/Bテストを繰り返し顧客のトラストを常に追求することが大切ですね。意識しなければならない要素が膨大で混乱しますが私も一つ一つのパーツにおいて何が信頼されているのかを研究していきたいと思います。
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